世界的な半導体不足からの回復が全く見えてこない。
特に深刻な車載半導体の不足は世界中の自動車メーカーの生産ラインを再度停止した。再度生産ラインを停止することを発表したのは、トヨタ、ホンダ、日産、フォード。GMも4月半ばまで生産停止を延長、スバルも生産調整を継続している。
更には、国内半導体大手のルネサスエレクトロニクスは、300mmウエハを24,000枚処理出来る那珂工場主力のN3ラインでは火災が発生、車載向けマイコンの生産が主力のため、更に追い打ちをかけるような状況だ。

ルネサス那珂工場で火災、自動車用製品供給に影響

車載以外の半導体も、ファウンドリのトップ2であるTSMCとサムスンに気象条件の悪化が半導体供給に影を落とす。

サムスンが工場を置くテキサスでは、2月に深刻な寒波が襲い、停電状態に陥ったが、1ヶ月が経つ現在も正常化出来ていない。

Samsung Electronicsの米工場稼働停止、世界のスマホ生産に影響

車載向け半導体大手のNXPや独Infenionのオースティン工場も停止に追い込まれた。米テキサス州のオースティン製造業協会のエドワード・ラットソンCEOは「オースティンの半導体工場の稼働再開が遅れている。5カ月後も自動車会社への影響が続くだろう」と述べた。

一方、TSMC、UMCといった主要ファウンドリが工場を置く台湾では、昨年に台湾へ台風が上陸しなかった事による、水不足が発生。自治体による給水制限が強化されることを見据え、TSMCは給水車を用意するなどの対応を取った。現時点では生産に影響が出ていないと見られるが、台湾のダムの貯水率は軒並み20%を割り込む事態となっており、香港の証券会社CLSAは1〜2ヶ月程度は産業への影響は無いとしながらも、それ以上水不足が続いた場合は、エレクトロニクス産業の生産にも影響があるとしている。

これらの報道からも分かるように、チップの製造には多大な電力、水といったエネルギーを使う。今後も進行するであろう地球温暖化に対し、対策を講じなければ、2100年の地球の平均気温は4度上昇すると見られ、干ばつによる食料不足や、異常気象、国土の消失を始め、多大な被害が生じる。現在、菅政権では2050年にはカーボンニュートラルを達成するために動いている。(自動車産業では、ガソリン車を2030年以降販売しないとしている。)今後、市場が更に拡大すると見られる半導体産業も、遅かれ早かれ対策を講じる必要に迫られるだろう。ロームが2022年に稼働する、SiCを生産する筑後工場新棟では、使用電力を100%再生可能エネルギーとする、環境配慮型の最新工場となる。排熱を有効活用した高効率の空調設備や純水製造設備など、さまざまな省エネルギー技術を用いた設備を導入するという。今後はこのような環境、エネルギー対策がスタンダードになっていくだろう。

より消費者に近いAppleは2020年7月、環境保護のため、製造サプライチェーンも含めて温室効果ガスの排出を低減し、2030年までにカーボンニュートラルを目指すと発表しているが、この目標を達成するためには、サプライヤーの工場が温室効果ガス排出量を減らして行かなければならない。
そのためか、TSMCは7月末に事業電力を100%再生可能エネルギーに切り替える国際イニシアチブ「RE100」に加盟した。半導体製造大手では、同社が初だという。

チップの高性能化やパワー半導体の普及は、消費電力を抑えるためにも一役買っているが、今後は製造時のエネルギーマネジメントにもより注力していく必要がある。これが後に自社を救うことにも繋がるだろう。