産業技術総合研究所(産総研)は12月10日、先端半導体研究センター新原理シリコンデバイス研究チームの岡博史主任研究員、浅井栄大主任研究員、森貴洋研究チーム長らが、0.015ケルビン(-273.135℃)の超極低温でのトランジスタのスイッチング特性を世界で初めて解明したと発表した。

集積回路(IC)の構成素子であるトランジスタの動作特性は温度によって変化することが知られており、ICはその対象動作温度での特性を考慮した回路設定を行う必要がある。一般的なICは室温(約300ケルビン)環境で動作させることが多いが、車載、地中資源採掘、宇宙・航空産業など、その用途によって動作温度の異なるICが開発されている。近年では量子コンピューター用の制御回路として、低温下で動作するICの研究開発が進められており、これらは量子ビットに超伝導量子ビットやシリコン半導体量子ビットを用い、制御回路を4ケルビン(-269.15℃)で動作させる。しかし、こうした低温下でのトランジスタ特性は従来の半導体物理に基づく理論式から大きく逸脱するため、特性を説明できなかった。

研究チームは今回、0.015ケルビン(-273.135℃)までの超極低温での電気特性を測定し、スイッチング特性の原因を突き止めた。スイッチング特性は、サブスレッショルド係数(S係数)と呼ばれる性能パラメータで評価し、一般には低温になればS係数の値が小さくなり、スイッチング特性は向上する。一方、50ケルビンから1ケルビンにかけての温度帯でS係数が基本モデルによる予測から外れることがわかっていたが、その原因は不明であった。

そこで今回、これまで1ケルビン以上での測定結果を説明する仮説として提唱されていた可動電子モデルの逆の考え方である、界面の欠陥に電子が捕らえられる捕獲電子モデルで理論計算を行った。その結果、実験結果と同じS係数の再減少を再現できた。この時、S係数は電子の捕獲が始まると温度に対して一定となり、ほぼ満杯に捕獲されると再び減少を始めた。この研究により、界面の欠陥に捕獲される電子の量がスイッチング特性を決めているということが明らかになった。これにより、低温で動作するICをより正しく設計できるようになり、量子コンピューターの研究開発を大きく加速させることが期待される。

今後産総研では、今回の成果を元に、トランジスタ特性を再現する方程式の高度化を実際に実施し、制御用ICの設計技術を高め、大規模集積量子コンピューターの実現を目指すとしている。