産業技術総合研究所(以下産総研)先進パワーエレクトロニクス研究センターパワーデバイスチームの 中島 昭 主任研究員、原田 信介 研究チーム長は、ワイドバンドギャップ半導体であるGaN(窒化ガリウム)を用いた高電子移動度トランジスタとSiC(窒化ケイ素)を用いたPNダイオードの両者をモノリシックに一体化した、ハイブリッド型トランジスタの作製および動作実証に世界で初めて成功した。
試作したハイブリッド型トランジスタは、GaNの特長である低いオン抵抗およびSiCダイオードで実績のある非破壊降伏の両立を実現した。

産総研では、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、電気自動車や太陽光発電などの普及が求められており、それらに使用される電力変換器には、現在よりもさらなる高効率化・小型化および高い信頼性が必要である。そのため電力変換器に使用されているパワートランジスタについても、さらなる技術革新が不可欠である。とし、パワートランジスタに求められる3つの性能

①高効率な電力変換を実現するための、スイッチオン状態における導通損失を減らす低いオン抵抗
②スイッチング損失を減らすための、オンとオフの高速な切り替え性能
③電力変換回路の異常動作時におけるノイズエネルギーの吸収源としての役割

を向上させることが必要だが、現在のSiパワートランジスタではこの①〜③の性能が限界に達していることから、GaNやSiCといったワイドギャップ半導体を用いたパワートランジスタの研究開発を行ってきた。しかし、GaNトランジスタでは①、②の性能は優れるものの、③が小さく(GaNトランジスタには、高電子移動度トランジスタに特有のデバイス構造上、ボディダイオードが存在しない。そのため、図1(b)に示すようにノイズの逃げ場がなく、わずかなノイズで素子が破壊される。そのため産総研では、図1(c)に示すようにGaNトランジスタとSiCダイオードを同一の基板上に一体形成(以下「モノリシック化」という)したハイブリッド型トランジスタの研究開発を行った。

 

GaNとSiCのハイブリッド型トランジスタの実現には、GaNとSiCの両者に対するデバイス試作環境が必要となるが、産総研は、TIAにおけるオープンイノベーション拠点の一つであるSiCパワーデバイスの100 mm試作ラインを拡張し、SiCとGaNの共用試作ラインとして立ち上げ、ハイブリッド型トランジスタの試作を行った。今回はコンセプト実証として、小型デバイス(定格電流20 mA程度)の試作および動作確認に成功した。

産総研が発表した上記の断面図では、まず、SiC基板上にp型SiCエピタキシャル膜を結晶成長させ、次に、イオン注入により、p+型SiCとn型SiCによるダイオード構造を形成した。さらに、それら上部に、GaNエピタキシャル膜とAlGaNバリア膜、GaN キャップ膜の3膜をエピタキシャルに成長させ、GaNトランジスタ構造を作製した。このようにして、SiCダイオードとGaNトランジスタのモノリシック化に成功した。p+型SiC上のアノード電極(A)と、AlGaNバリア層上のソース電極(S)をつなぎ、n型SiC上のカソード電極(C)と、AlGaNバリア層上のドレイン電極(D)をつなげて、3端子のハイブリッド型トランジスタとした。

このハイブリッド型トランジスタは高い信頼性が求められる電気自動車や太陽光発電用パワーコンディショナーなどへの適用が期待される。

 

今後は、デバイス製造プロセスのさらなる最適化を進め、実用化に向けた橋渡しを目指す。
なお、産総研では、この技術の詳細は、2021年12月11~15日に米国サンフランシスコ州で開催される67th Annual IEEE International Electron Devices Meetingでオンライン発表するとしている。