自動車メーカー各社が半導体がボトムネックとなったことによって、世界的に減産を余儀なくされている。5Gの普及により、設備投資やデバイスの売上が増加したことに加え、コロナ禍でオンライン利用が高まった事が原因で、サーバも含めて需要が増加したことが遠因として考えられる。

加えて、車載半導体自体も運転支援システムや、ネットワークとの連携、車内インフォテインメントシステムが進んだりすることで、高性能の半導体を使用する必要があるが、高性能の半導体を製造出来る工場は一部に限られてくる。その一部の工場は、付加価値が高く利益率の高い半導体に材料やラインを使用するため、比較的性能の低く付加価値の低い車載半導体は後に回ってしまうという事も挙げられる事も考えられる。この半導体不足によって自動車が生産出来ない状況は、近年の「自動車の家電化」を一段と印象付けたと感じる。

現在でも自動車向けでは主力の動力であるエンジンは、ガソリンを筒内で燃焼させて、その燃焼によって動くピストンから回転運動を取り出してタイヤを回すという方式を取る。その機構は極めて複雑で、エンジニア達は点火タイミングやガソリンの噴射方法、燃焼室の複雑な形状作成、高温、高回転にも耐えられる材料や、潤滑、冷却機構を開発することで、技術力を養って来た。特に日本はガソリンを輸入に頼っている事や、道路事情から大きい車格の車が作られなかった事が影響してか、少ないガソリンをいかに効率良く動力に変換するかという技術に関しては世界随一であり、この工業力が世界的な自動車メーカーやサプライヤーを生み出してきた。

しかし、今後EV化されると、エンジン搭載車に利用された25%の部品が必要無くなるとも言われ、エンジンで培ってきた複雑な技術は必要無くなってしまう。

この事実を突きつけたのが、ソニーの試作車、VISION-Sでは無いだろうか。ソニーは自動車を開発した経験がこれまで無かったにも関わらず、完成度の高いクルマを生み出した。VISION-Sには、世界のメガサプライヤー(マグナシュタイヤー、ボッシュ、コンチネンタル、ZFなど)が協力しており、サプライヤーの協力があれば、完成度の高いEVを製造することが可能という裏付けとなった。

更に、2020年末から今年にかけては、アップルのEVが、韓国のヒュンダイの協力を得て、数年内に発売されるというニュースが駆け巡った。アップルがPCやスマートフォンチップの為に最先端ファブを積極的に利用している事が、既存自動車メーカーの生産を止めているとしたら、何とも皮肉ではある。

思えば、時価総額ではトヨタを超えたテスラも、10年以上前に発売したEV「ロードスター」の車体は、イギリスの名門「ロータス」のスポーツカーをEV化したものであった。当時は電池の重量だけで450kgにも達していた。元のエンジン重量の4倍近くにも昇るが、コンセプトが受け、セレブリティを中心に普及し、今ではS&P500の一員である。

脱炭素化が加速し、日本も含めてEVの普及が今後更に加速していくと見られる。それに伴い、中国や米国を中心に、新たな自動車メーカーが既存メーカーのシェアを奪っていく流れは確実に起こる。そのためにもソニーのような元気な日本のメーカーが自動車産業に参入する流れは、日本の自動車メーカーにとっては心強いのでは無いだろうか。