電動化はさらなる好況を半導体産業へ呼び込むか

自動車メーカーの本田技研工業は、2040年に販売する新車を全て非ガソリン車(EV、FCV)にするという戦略を、新社長の三部敏宏氏が23日の就任会見で明らかにした。ホンダは、トヨタがプリウスを世界初のハイブリッドカーとして発売した2年後に「インサイト」を発売するなど、環境への意識は以前から強い。インサイトの発売以後、定期的にハイブリッドカーを発売している。昨年には初のEVである「honda e」を発売した。昨年末には、エンジニアのリソースをカーボンニュートラルに振り分ける事を目的として、自動車レース最高峰のF1(フォーミュラ1)からも2021年をもって撤退する事を発表していた。

世界の大手自動車メーカーは軒並みEV化へ舵を切り、流れを加速させている。

中国勢では、BYDの成長が著しい。国家を挙げて中国を産業大国にするべく、リスクを負いつつもSiCモジュールや体積を小型化したリチウムイオン電池を積極的に採用して、航続距離を605kmまで伸ばすなど、商品力を向上させている。
また、新興上汽通用五菱汽車(SGMW)がマイクロEVである宏光MINI EVを47万円で販売し、EVの世界シェアを4位まで伸ばしている。

欧州では、フォルクスワーゲン、BMW、メルセデスのドイツメーカーがEV世界シェアのランキング上位を占める。特にフォルクスワーゲンでは、EVのi.dシリーズを順次発売しており、現在では「I.D3」「I.D4」が主流ラインナップとして販売されている。

この世界のメーカーの動きに対すると、国内はEVの普及に対し、少し後手を踏んでいる。

自動車販売最大手のトヨタは、先日発表した「bZ4X」を皮切りにグローバルで2025年までにbZシリーズ7車種を含むEV15車種を発売することを明らかにした。

日産も2010年にリーフを発表し、EV市場の先陣を既存自動車メーカーとして走ってきたが、近年は欧州勢や中国勢に押されている。また、車種もリーフのみであった。今年ようやく、2車種目のSUV、アリアを発売する。一方で、ガソリンエンジンを発電に利用し、モーターで走行するEVとは異なるコンセプトのパワーユニットで車種を展開している。

このEVへの需要増と性能向上の要求に対応するため、半導体メーカーも積極的に動く。

20年12月にトヨタが発表した水素燃料電池自動車「Mirai」では、デンソーが開発したSiCトランジスタとSiCダイオードの双方が搭載され、新しいSiCトランジスタは、トレンチゲート型を採用したデンソー独自の構造や加工技術により、厳しい車載環境下で求められる高信頼性と高性能を両立させ、このSiCパワー半導体(ダイオード、トランジスタ)搭載昇圧用パワーモジュールと、従来のSiパワー半導体搭載製品を比較すると体積は約30%削減、電力損失は約70%低減と、車両性能の向上に大きな役割を果たす。

ロームは2021年1月、SiC(炭化ケイ素)パワーデバイスの製造拠点となるローム・アポロ筑後工場(福岡県筑後市)の新棟の建屋が完成したと発表した。2022年に稼働する予定。
また、昨年には2017年から協力関係にある中国新エネルギー自動車向け駆動分野の先進企業であるLeadrive Technology (Shanghai) Co.,Ltd.と中国(上海)自由貿易区試験区臨港新区にて、「SiC技術共同研究所」を開設し、SiCを中心とした革新的なパワーソリューション開発をさらに加速させて行く。

ドイツのInfineon Technologiesは、2025年に8インチのSiCウエハを量産する計画を立てる。2020年のInfineonのSiC製品の売上は、19年度比60%以上伸長したと見られ、その要因としては太陽光発電システム、EV用の据置型充電器、UPS(無停電装置)によるものと見られるが、今後、カーボンニュートラル達成に向けて既存自動車メーカーや商機を伺う新興EVメーカーが大きく需要を押し上げるだろうと見られる。

SiCパワーデバイス市場が拡大すればするほど、量産され、価格が低下し、普及が加速される。現在はSiCパワーデバイスが車載向けに本格普及する前夜と見られる。国内自動車メーカーとも主力量産車への搭載を検討するが、コストと信頼性の面で搭載を見送っている。しかし、米国のテスラ・モーターズは既に主力のモデル3にSiCモジュールを搭載している。中国BYDの突き上げも激しい。そのため、国内メーカーも直に主力車種にも採用すると考えられる。

英Omdiaは、SiC市場が2018年の5億7100万ドルから2020年には8億5400万ドルへ拡大し、今後も10年にわたって年率2桁で成長を続け、2029年には50億ドル規模へと成長する見込みだとしている。