4月7日朝、衝撃的なニュースが飛び込んできた。英投資ファンドCVCキャピタルパートナーズによる東芝買収提案だ。
その後、車屋暢昭社長は、このニュースを事実と認め、取締役会で検討に入るとした。

1904年に創業した名門の2010年代は凋落の10年であった。2011年、東日本大震災発生により、日本政府とともに海外へ売り込みをかける予定だった原発事業は暗礁に乗り上げ、東芝の威信をかけるはずであった原子力ビジネスは、不正会計によって、利益を水増しする場と化した。利益の水増しは、原子力のみではなく、半導体、映像事業、パソコンと主力事業全般で行われていた。この事実が発覚した2015年3月から約4か月後、当時の田中社長は引責辞任し、それ以前の社長であり、相談役であった不正会計の主役、西田、佐々木両相談役も辞任をすることとなった。

この不正会計発覚から1年後には、2006年に6,600億円で買収した米原子炉製造ウエスチングハウスの巨額損失が発覚、ウエスチングハウスは2017年3月に、東芝によって経営破たんの手続きが行われた。これにより、東芝は億円の債務超過に陥り、東証1部から2部に格下げとなった。その後東芝は財務を正常化させるべく、当時の東芝メモリを約2兆円で売却、巨額損失発覚の前には、虎の子の家電事業を中国の美的集団に売却、成長が見込まれた医療機器製造の東芝メディカルシステムズもキヤノンに約6,600億円で売却することとなった。かつては世界一の販売台数を誇っていたノートPC事業もシャープに売却。半導体製造装置メーカーである芝浦エレクトロニクスの株式を売却して、持分法適用関連会社から外したのもこの頃である。東芝は生き残るために成長事業も含めてなりふり構わず切り落としてきた。かつてはサザエさんと日曜劇場で、日曜日を彩っていたE(エネルギー)&E(エレクトロニクス)の東芝は一般消費者とは縁の無い企業となってしまった。

それでも、東芝は持ち前の高い技術力で2003年から取り組んできた量子暗号技術と既存の原子力発電より遥かに安全である、次世代のクリーンエネルギーと目される核融合発電技術で世界の先頭を走り、再び東証1部にも帰り咲いた。

だからこその買収提案だろう。投資会社はリターンを得るために投資をする。成長事業に大きく投資したことが実ったとも言える。しかし近年、企業のグローバル化は米中貿易摩擦を引き金に転換期を迎えている。米国では自由民主主義思想の政党である民主党政権に代わってもトランプ政権から自国第一主義を一部引き継いでいる。半導体事業に500億ドルもの金額を政府が投資し、東アジアに流れた自国の半導体事業を引き戻そうとしている。

このバイデン政権の動きと比較して、日本は企業や技術の流出防止に積極的では無い。かつて栄華を誇った日本のDRAMメーカーは現在は0社であり、東芝が開発したNANDフラッシュメモリは、90年代前半にサムスン電子に技術供与し、その後サムスンが東芝よりも多額の投資を行った事により、世界シェアのトップはサムスンに奪われている。(つい先日には東芝のNANDメモリ事業が母体のキオクシアに対しマイクロンとウエスタンデジタルがそれぞれ買収を提案する報道もあった。)

かつて栄華を極めた日本の半導体メーカーがあったからこそ、現在も日本の製造装置や材料メーカーは世界の第一線で活躍している。この日本の強みは現在では外交面でも切り札となっている。中国、米国共に日本の半導体材料、製造装置の動向を気にかけており、韓国に対しては日本は半導体材料の輸出に規制をかける政策を取った。

武力を持たない日本が戦後世界トップクラスの国になったのは、自動車やエレクトロニクスといった産業界の努力によるものである。ノーベル賞の受賞者数は世界第5位。その多くが、物理学、化学、医学といった理系分野である。一方で、現在は自動車、エレクトロニクスといった各産業分野では中国の台頭も含め、他国の突き上げを受けている。非武装の日本が、世界でも注目、尊敬される国でいるためには技術の蓄積と進化は欠かせない。

研究者はブレイクスルーのために研究を重ね、技術者、マーケター、デザイナーはその新しい技術をどう加工すれば市場に受け入れられるかを考え形にし、営業はその製品の良さを個々に理解してもらうために努力する。この流れが途切れると企業は崩れてしまうと考える。

今回の買収提案もまた、CVCと車谷社長の過去の関係が報じられるなど、東芝の技術力とは関係の無い政治的、コーポレートガバナンスの駆け引きの部分がクローズアップされてしまっている。それによって、日本の強みがまた一つ海外に取り込まれてしまうのは悲しいものがある。