半導体受託生産最大手、台湾・TSMCは3月3日、米国に新たに1,000億ドル(約15兆円)を追加投資すると発表した。同社は米アリゾナ州に3棟の先端半導体の前工程の工場を建設する計画であったが、ここに新たに2棟の先端パッケージング工場と1棟のR&Dセンターの建設計画を追加する。これにより、同社の米国に対する投資総額は1,650億ドルとなり、外国からの単一の直接投資としては米国史上最大となる。

同社の先端パッケージング工場の建設は海外では初となる。また、1,000人規模のR&Dの拠点も設置する。拠点すべてが完成すると、同社は台湾以外で初めて、先端パッケージングまで含めた先端半導体の一貫生産体制を構築することになる。

同社は年間13兆円規模の売上高のうち7割が北米顧客向けとなっている。TSMCは発表で今回の追加投資について、米Apple、米NVIDIA、米AMD、米Broadcom、米Qualcommなどを挙げ、「米国を代表するAI及び技術革新企業を含む顧客をサポートする」と強調。同社の魏哲家CEOも米国への投資拡大について、需要が大きいためであると述べた。米国内で先端半導体の一貫生産により、各顧客への迅速な供給を可能にする。但し、2nmプロセスは2025年に台湾で最初に量産するなど、先端技術の開発・量産の中心は引き続き台湾に置く方針を維持する。

なお、同社による米国への巨額投資の背景には米トランプ政権による関税政策があるという見方がある。トランプ大統領は台湾について、「米国の半導体ビジネスを奪った」と不満を示し、台湾の半導体メーカーに最大100%の高関税の導入を示唆していた。米国内で先端半導体の一貫生産を実施すれば、仮に高関税が導入されてもその影響を回避しようという狙いである。米国のラトニック商務長官はTSMCの今回の追加投資について、「補助金ではなくトランプ大統領の関税政策のため」であると強調した。一方、台湾政府とTSMCは「米国からの圧力は受けていない」と主張している。