2024年12月2日、米半導体大手のIntelは声明を発表し、同社の最高経営責任者(CEO)であるパット・ゲルシンガー氏が2024年12月1日付けで退任したことを発表した。Intelでは前任のボブ・スワン氏もわずか2年半で退任となったが、今回のゲルシンガー氏も4年に満たない期間での退任となっている。これまではCEOの在任期間が長かった同社がCEOを次々と変更する事態となっており、Intelの苦境を物語っている。

ゲルシンガー氏は2021年2月にIntelのCEOに就任、1ヶ月後の21年3月にはファウンドリ事業である「Intel Foundry Services」を立ち上げる事を発表した。しかし、ファウンドリ事業は2023年の営業損益が70億ドルに上るなど、業績浮上のきっかけが見られずに、2024年9月にはIntelのみの事業運営には限界があるとして、ファウンドリ部門を子会社化し、外部資本を受け入れられるようにした。

同社の半導体売上高(GNC推定)も2021年の646億1,900万ドルを頂点に、2022年は前年比17.3%減の534億2,900万ドル、2023年は同12.5%減の467億2,500万ドルと低調に推移し、2024年8月には全従業員の約15%にあたる15,000人の人員削減を発表、2024年7~9月期では人員削減に伴う費用もかさんだことにより、166億3,900万ドルの最終赤字を計上した。

この苦境の要因として、Intelがファウンドリサービスを開始した後、米OpenAI社による「ChatGPT」サービスが開始され、HBMと先端ノードのGPUを繋いだAI向けの半導体に需要が集中したことが挙げられる。AI半導体は前工程から後工程までを先端プロセスで揃えたTSMC(NVIDIA)の一人勝ちといえる状態となった。Intelはパッケージでは先端プロセス(22nmプロセスによるSiインターポーザ、3次元積層のFoveros)を自前で製造できるものの、主要チップはTSMCから調達する状態が続いていた。

しかし、Intelはこれまで3nmノードウエーハを通常の約4割引の価格でTSMCへ生産を委託していたが、ゲルシンガー氏の不用意な発言によりTSMCが激怒、割引が取り消されたとの報道が退任の1ヶ月前にあり、これが事実なら退任に影響した可能性もある。

しかし、現在のIntelの苦境はゲルシンガー氏だけの責任ではないという声もある。

Intelではブライアン・クルザニッチ前々CEOの時代から、10nmプロセスの立ち上げに失敗し、その間に米Appleは2020年には性能の上がらないIntel製プロセッサを見限り、自社設計、TSMC製造に切り替えるなど悪い流れが続いていた。そのような状態の中就任したゲルシンガー氏だが、TSMCのN7相当であるIntel7を立ち上げ、TSMCのN5/N4相当のIntel4では、生産量は多くないと言われているがIntelとして初めて量産プロセスにEUVを適用した。歩留まりでは差があると見られるものの、量産プロセスではTSMC、韓Samsungの背中が見えるところまで進んできた。

ゲルシンガー氏の正式な後任は現時点では未定。当面はデビッド・ジンスナー氏{上級副社長兼最高財務責任者(CFO)}とミシェル・ジョンストン・ホルタウス氏(兼Intel Products CEO)が共同CEOとして陣頭指揮を取る。ジンスナー氏は、 米 Affirmed Networks社で社長兼最高執行責任者(COO)、米Analog Devices社で財務担当上級副社長兼最高財務責任者(CFO)などを歴任した2022年1月、上級副社長兼CFOを務めていた米MicronからIntelに入社した。

Intelでは現在GAA(Gate All Around)とBSPDN(Backside Power Distribute Network)を採用したIntel 18Aの立ち上げを進めている。CEOが変更しても、他社の最先端ノードに追いつくIntel 18Aの動向が将来のIntelの浮上を左右することに変わりは無いと見られる。