韓国政府は、2021年5月13日、国家が韓国の半導体産業を全面的にバックアップする「K-半導体戦略」を発表した。文在寅大統領はサムスン電子の工場を訪問し、半導体は製造業の国内投資の約45%、輸出の約20%を占める最大の屋台骨だとしたうえで、大規模投資を通して「世界最高の半導体の生産基地をつくり、世界の供給網をリードする」と語った。

この半導体戦略では、まずサムスン電子やSKハイニクスなどの企業側が

1.最先端のメモリ製造施設の増設・高度化を通じた世界におけるメモリのリーダーの維持、ファウンドリ設備の新設や増設の推進を通じた韓国の半導体サプライチェーンの安定化計画が紹介された。計画の一環として、サムスン電子は171兆ウォン(約16.7兆円)を投資して平沢に新しい半導体製造設備を建設すると明らかにし、SKハイニクスは現在の2倍の水準となる8インチファウンドリ生産能力を確保することを明らかにした。

2.「素部装」(素材・部品・装置)の分野では、龍仁(ヨンイン)半導体クラスターにおける大規模な半導体工場(生産工場)と関連企業の連携により特化団地を造成し、「素部装」分野の競争力強化を実現するという計画が紹介された。政府は「現在の製品が量産されている半導体工場と連携したテストベッドを構築する」と明らかにした。

3.先端装備の分野では、韓国には短期の技術の追撃が難しいEUV(極紫外線)露光、先端エッチングと素材分野に関しては海外投資企業の投資誘致を拡大し、国内の半導体サプライチェーンの弱点を補完する計画が紹介された。このため、政府は「先進的なEUV装置を独占供給するオランダのASML社のトレーニングセンターを誘致して、合計2,400億ウォン(約233億円)を投資して生産能力を2倍に増やす」計画を述べた。

4.パッケージングの分野では、さまざまな機能のシングルチップ実装のための先進的なパッケージング生産基地の造成と5大次世代パッケージング技術への投資を通じた先端パッケージングプラットフォームの構築の計画が紹介された。

5.ファブレス分野では、システム半導体設計支援センター、AI半導体イノベーションデザインセンターなどの次世代半導体複合団地を造成するという計画が紹介された。政府は板橋(パンギョ)を韓国型の「ファブレスバレー」として育てるとの意思を明らかにした。

一方、政府側の支援として

1.税制支援として、重要な技術の確保、量産設備の拡充を促進するための「核心戦略技術」(仮称)を新設し、R&D・施設投資税額控除を大幅に強化する。政府は、半導体の商用化前の量産設備投資についても「核心戦略技術」への投資に含み支援をする予定であり、R&Dの最大40〜50%、施設投資の最大10〜20%を控除する。

2.金融支援の面では、8インチファウンドリ増設、「素部装」と高度なパッケージング設備投資を支援するために1兆ウォン(約1千億円)+α規模の「半導体などの設備投資特別資金」(優遇金利:1%p減免、ローン期間5年据え置き、 15年分割返済条件)が新設される。その他事業の競争力強化支援資金などの支援規模を最大限に拡大し、様々な金融プログラムも積極的に支援する。

3.規制緩和の面では、化学物質、高圧ガス、温室効果ガス、電波応用機器などの半導体製造設備関連規制を合理的に改善する。半導体廃水処理の場合、排水リサイクルのR&Dを政府次元で積極的に支援する。

4.基盤構築の面では、半導体産業の重要拠点となる龍仁・平沢など10年分の半導体用水量の確保、重要な戦略的な技術に関連する半導体製造設備の電力インフラ構築時、政府・韓国電力が最大50%の範囲内の共同分担支援などが実施される。

また、「半導体特別法」を制定し、技術流出を防ぐため省庁間の協議体も作っていくという。
韓国では、サムスン、SKハイニックスの2社がDRAM、NANDフラッシュのメモリを中心に、多くの製品を出荷する。一方でメモリ市況は需要の増減が激しく、2018年はメモリバブルで好況だったものの、2019年には旺盛なメモリ需要が一段落し、半導体への投資が少なくなったことにより、世界的な半導体不況が発生した。特に韓国はメモリの生産に特化していた事で、この不況のあおりを半導体の主要国で最も受けた。今後はサムスンやSKが向こう10年で510兆ウォンもの投資を実施すること、この「K-半導体戦略」を軸に韓国半導体産業はメモリだけでなく、システムLSI、ファウンドリ分野、装置、材料にもより積極的に進出していくだろうと見られている。