半導体受託生産最大手、台TSMCと東京大学は2025年6月12日、先端半導体技術の共同ラボを東大本郷地区の浅野キャンパス内に設置し、運用を開始したと発表した。TSMCが台湾外の大学に共同ラボを設置するのは初めて。次世代半導体向けの材料やデバイス、回路設計、実装技術などを共同で研究するほか、人材育成にも活用する。TSMCは同ラボに5年間で1,500万ドル(約22億円)を投入する見通しである。

TSMCと東京大学は2019年から先端半導体技術の共同研究を進めており、これまでの6年間で21件の研究プロジェクトを立ち上げてきた。2023年度からは「TSMC N16 (FinFET) ADFP」という、TSMCの16nmプロセスを用いたチップ設計を行うプログラムを日本で初めて導入し、半導体人材育成にも力を入れている。こうした連携をさらに体系的、戦略的に推進するため、両者は2025年4月に「産学協創協定」を結び、その具体的な取り組みとして共同ラボである「TSMC東大ラボ」の開設に至った。

「TSMC東大ラボ」は東大の池田誠教授とTSMCの技術研究ディレクターのマーヴィン・チャン氏がラボ長を務め、東大の教職員が運営する。同ラボでは1nm世代やそれ以降の「オングストローム」世代の有力技術として注目される、新構造のトランジスタやシリコン以外の素材を用いたトランジスタを研究する方針である。このほか、微細化に関連した材料、デバイス、設計などの技術を研究する。TSMCのシャトルサービスの利用もできるようにする。研究テーマに応じて常駐の研究員を配置したり、知的財産権の帰属を決めたりする。研究成果はTDMCの半導体開発や量産に応用されるほか、東京大学で実施される技術シンポジウムで定期的に発表されるとのこと。

TSMCのエグゼクティブ・バイス・プレジデント兼共同COOの米玉傑氏は東京大学への共同ラボ設置の理由について、「TSMCは日本国内に複数の事業所や拠点を持ち、日本は台湾との距離も近い。研究成果についてコミュニケーションを取りやすい」と述べた。

東京大学の藤井輝夫総長は「教育の充実や、博士課程の学生への研究支援などに共に取り組む」として、半導体人材育成に繋げる考えを示した。

出典:TSMC News Release