米Wall Street Journalは2025年5月21日、米パワー半導体大手、Wolfspeedが日本の民事再生法に相当する米連邦破産法第11条の適用申請に向けて準備していると報じた。今後数週間以内に申請する可能性があるという。

同社は主に電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)などに用いられる炭化ケイ素(SiC)ウエーハの世界最大手かつ、SiCパワー半導体大手である。

2021~2022年にはEV市場が今後急速に伸びるとの見方が強まり、それとともに、従来のシリコン(Si)よりも電力効率の高いSiCの需要も急伸し、SiCウエーハの需給が逼迫する可能性も囁かれた。同社はこれを受け、2022年には米南部ノースカロライナ州で世界最大級の8インチ SiCウエーハの新工場建設を発表したほか、2023年にはルネサスエレクトロニクスにSiCウエーハを供給する10年間の長期契約を結ぶなど、攻勢をかけていた。ところが、2023年頃からEV市場の成長が鈍化、同時にSiC市場も減速し、SiCウエーハの価格も下落した。

また、中国企業の台頭も同社の業績悪化に拍車をかけた。TankeblueやSICCなどのメーカーが製造するSiCウエーハは品質が良いうえに、価格も安いことから急速にシェアを拡大。Tankeblueの2023年におけるSiCウエーハのシェアは20%弱、35%強を誇るWolfspeedに次ぐ世界第2位にまで成長した。

こうした背景から、Wolfspeedの業績は悪化。2025年第1四半期の売上高は1億8,500万ドルで前年同期比12%減、純損失は2億8,550万ドルで、前年同期比1億3,660万ドルのマイナスとなった。同社はリストラなどを決定し、状況打開を図ったものの、厳しい状況を抜け出せず、破産申請を準備するに至った。

同社の経営破綻による影響は日本企業にも及ぶとみられる。前述の通り、ルネサスエレクトロニクスはSiCウエーハの供給契約を結んでおり、Wolfspeed製のウエハを用いて2025年から高崎工場でSiCパワー半導体の量産を始める計画だった。ルネサスは量産開始を遅らせたため、短期での影響は少ないが、今後のウエーハ供給の不安定さを抱えることになる。また、ロームや富士電機などは中国勢との競争のため、価格や部材の安定供給といった部分の戦略を再考する必要がある。今後、各企業がどのような動きを見せるのか注目である。