11月9日、米商務省は半導体受託生産最大手、台湾・TSMCに対し、人工知能(AI)に使用される先端半導体の中国顧客向けの出荷を11日から停止するよう命じたことが明らかになった。これを受け、TSMCは同日、複数の中国顧客に対し、AI向けや高性能演算向けの先端半導体の出荷を停止する旨を伝えたという。

今回の出荷停止の背景としては、10月に半導体に関する調査を行っているTechinsightにより、Huaweiが2022年に発売したAIチップセットの「Assend910」内にTSMC製半導体が使われていた事実が判明したことがある。後に同製品に搭載されていた半導体が中国の半導体設計企業であるSOPHGOが発注したものであったことが報じられており、Huaweiが制裁対象でないSOPHGOを代理人としてTSMCに発注することで米国の制裁を回避していたとの疑惑が浮上し、TSMCはSOPHGOとの取引を中断していた。そして今回、米商務省がTSMCに対して出荷停止の命令を出した。

対象となるのは回路線幅7nm以下のAI向けなどの半導体で、携帯電話や通信向けなどは含まれない。これによるTSMCの売上高への影響は最小限に留まる見通しという。一方、中国企業が今後TSMC製のAIチップを入手するには、米政府の審査プロセスを経る必要があり、チップの入手は事実上困難となる。これにより、BaiduやAlibabaが進めるAIクラウド向け自社チップ開発はその実現が厳しくなる可能性が高い。特にBaiduの「Kunlun」シリーズのチップは、TSMCの7nmプロセスで製造されているため、今後の製造の見通しが不透明になる。

TSMCは声明で「当社は法令を遵守する企業であり、適用されるすべての規制に従う」と述べ、今後の輸出規制にも協力する姿勢を示した。

なお、今回の措置について、5日の米大統領選でトランプ前大統領が当選した点が関連するという見方もある。トランプ氏は台湾に対し、「米国のチップ産業を盗んだ」などと非難し、TSMCに対しては「米国に半導体製造工場を作る見返りとして途轍もない補助金を得た後、結局生産施設を自国に持っていくだろう」と述べている。米商務省の命令を迅速に受け入れたのは、トランプ氏からの信頼を得る側面もあるという見解である。

これに対しTSMCの関係者は、同社の狙いが米輸出規制に抵触するリスクの回避にあり、トランプ氏の当選とは無関係であるとしている。