2024年2月12日、九州大学グローバルイノベーションセンターの吾郷浩樹主幹教授、日東電工株式会社、合同会社二次元材料研究所、中央大学の李恒助教・河野行雄教授、九州大学先導物質研究所の吉澤一成教授、九州大学大学院総合理工学研究院の辻雄太准教授、大阪大学産業科学研究所の末永和知教授、産業技術総合研究所の林永昌主任研究員らの研究グループは、NEDOの支援を受けて二次元材料に特化した、紫外線で粘着力が低下する機能性テープを開発することに成功したと発表した。

今後、半導体に対して「⼆次元材料」が、ポストシリコン半導体、6Gなどの次世代通信、フレキシブルデバイス、光・磁気・バイオセンサーなど将来のエレクトロニクス産業で重要な役割を果たすと期待されており、例えば、炭素からなるグラフェンは物質中で最⾼のキャリア移動度を⽰すことから、集積回路や各種センサーへの応⽤が進められている。また、遷移⾦属ダイカルコゲナイド(transition metal dichalcogenide (TMD))は、極薄のチャネル材料として優れた動作を⽰すことがわかっている。

グラフェンは銅触媒の上にCVD法によって、⼤⾯積に合成することができるが、銅の上でデバイスを作ってしまうと銅に電気が流れてしまい、グラフェンの優れた特性が発揮できないという問題があることから、⾦属などの成⻑基板からシリコン基板やフレキシブルなプラスチック基板などに移す「転写」というプロセスを⾏う必要があり、今まではこの転写プロセスが、CVD合成後に⾼分⼦でグラフェンを保護しながら扱い、(図1(a,b))その後、基板を酸溶液などに浸すことで銅を溶解させ、⾼分⼦保護膜/グラフェンだけにして溶液から取り出し(図1(c,d))、洗浄後にシリコン基板などに移し(図1(e))、最後に⾼分⼦をアセトンなどの有機溶媒に浸して除去する(図1(f))という複雑な工程を踏む必要があった。

しかし、この⽅法では、(1) 転写時に⾼分⼦と⼀緒にグラフェンが破れやすい、(2) ⾼分⼦を除去するのに有機溶媒が必要で、プラスチック基板には使えない、(3) 完全に⾼分⼦を除去できずグラフェンの表⾯に残ってしまう、(4) エッチングに時間がかかる上、銅を溶かすために銅の再利⽤ができず、環境負荷が⼤きい、(5) ⼤きな⾯積になるほど破れやすい、(6) 転写の経験のある研究者が⾏う必要がある、といった多くの課題が発生していた。

そこで、⼆次元材料の合成において多くの知⾒と優れた技術を持つ九州⼤学の研究チームと、幅広い業界に向けて⾼機能材料を開発・販売してきた⽇東電⼯の両者が共同研究を⾏うことで、上記の転写の問題を解決する新たなテープの開発に成功した。さまざまな機能性テープを検討した結果、紫外光(UV光)を照射すると粘着⼒が1/10程度に⼩さくなるUV剥離テープを⽤いることで、⾼効率なグラフェンの転写を実現した。(図2)

この研究のポイントは、粘着⼒が強い状態でUVテープをグラフェンに密着させることでしっかりテープ側に「キャッチ」して、UV光で粘着⼒が弱まった状態で「リリース」して基板に移す、という「キャッチ・アンド・リリース」のアイデアだという。科学的には、UV光でグラフェンと粘着剤のファンデルワールス⼒を制御して転写につなげたことを意味する。今回の研究では、効率的にグラフェンに適したテープを開発するため、⼈⼯知能(AI)を駆使して研究開発を⾏い、最⾼で99%の転写率を達成したという。さらに、従来の⾼分⼦転写よりも⽋陥や残渣が少なく、かつ転写を短時間で⾏うことも可能になったとしている。

従来の方法とUVテープを用いた転写方法を比較すると、UVテープによるグラフェンは従来の方法と比較して、破れや残渣が⼤幅に少なく、かつ表⾯が平滑であることが確認できたという。さらに、グラフェンのトランジスタを作って、グラフェンの中を流れるキャリア移動度を測定したところ、UVテープの転写膜では、より⾼い移動度分布を得ることができたとしている(図3(c))。

今後、研究グループでは、より多くの研究者に使えるようにして、⼆次元材料研究の活性化や、⼆次元材料の新たな応⽤分野の開拓、そして新産業創出につなげていきたいとしている。また、現在は最⼤で4インチ(Φ100 mm)のグラフェンが転写できているが、ポストシリコンデバイスやセンサーなどの産業応⽤を⾒据え、より⼤きなウエハレベルでの転写を各種⼆次元材料で⽬指していく。

出典:九州大学 ニュースリリース