環境問題の深刻化や、市場のゲームチェンジといった要因が、世界中の自動車メーカーを一気にEV化へと駆り立てている。これまでは爆音でガソリンを12個のシリンダーで波々と燃焼させていた、イタリアのスーパーカーメーカーであるランボルギーニやフェラーリといった自動車メーカーも現在はEVのスーパーカー開発に心血を注いでいる。
また、中国ではこれまで、日本やドイツを始めとした自動車産業が強い地域に内需を食われていたものの、技術的にも製造しやすい電気自動車を中国メーカーが以前より遥かに高いクオリティで量産しており、内需だけでなく、世界進出も狙っている。中国自動車大手の上海汽車は、高級車ブランドの「智己汽車」を立ち上げ、情報技術大手のアリババと手を組み、米電気自動車大手のテスラを超えるような電気自動車を作ることを狙っている。
米国では、テスラに加え、11月に新規上場したピックアップトラックの電気自動車を販売するリビアンオートモーティブは、市場にほとんど車を供給していないにも関わらず、一時時価総額で独フォルクスワーゲンを上回った。また、2025年にはアップルがアップルカーを用いて、いよいよ電気自動車市場に参入してくるという噂が飛び交っている。

欧州では排ガス規制が一段と厳しくなり、2035年にはゼロエミッション車のみの発売とする規制を発表した。 つまり、単純な内燃機関車だけでなく、日本車が得意とするHEV(ハイブリッド車)、さらにはPHEV(プラグインハイブリッド車)すら2035年以降は発売することができなくなる。

このような要因で世界は一気にEV化にシフトしているわけであるが、EVのデメリットも複数あると考えられる。

①温室効果ガスの排出は発電方法による。
EVからは温室効果ガスは排出されないものの、EVに電気を供給する発電所が火力発電を採用していれば、温室効果ガスは発電所から発生させていることになる。

②発展途上の充電ステーションの普及
まだまだガソリンスタンドと比較してEVの充電ステーションは少なく、世界的にこれから設営を急ぐ必要がある。また、EVの充電ステーションに発電所から送電する必要があり、それによるエネルギーロスも懸念される。また、送電が難しい場所にいかに充電ステーションを設置するのかという問題もある。

③充電時間が必要
EVの電池が目的地までたどり着けずに切れてしまったら、充電する時間が必要になる。急速充電用ステーションも存在するが、現在ではそれを利用しても160km走行するために30分待つ必要が出てきてしまう。ガソリン車のように気軽にスタンドに数分立ち寄って再出発というわけには行かない。

④電池の劣化
リチウムイオン電池が普及し、劣化までの充電回数は大きく伸びたものの、(8年、もしくは16万キロ補償を行うメーカーが多い)寒冷地や急速充電の多用、充電スタイルによって、多少の変化はあると見られる。また、EVは中古車の値段がつきにくいという弱点も存在する。

このような問題が EVには残る中、世界に先駆けてハイブリッドカーを1997年に発売したトヨタでは、新しい方法で動力を提供した。それが水素エンジンである。

これまで、自動車にとって水素とは、FCVと呼ばれる、水素で発電を行い、その電気で駆動するというものであったが、トヨタは水素を既存のガソリン車のエンジン内部で燃やす選択肢を取った。エンジンは既存のコンパクトカーであるGRヤリスのものを流用し、各部品にはほとんど手を加えず、インジェクター(燃料噴射機構)の変更だけで対応した。今年5月に発表された時点では、ガソリン仕様の出力を下回るものであったが、11月にはガソリン仕様と同等の出力を手に入れた。水素タンクも新型MIRAIのものを流用し、燃焼後に排出されるのは水だけである。

トヨタがエンジンにこだわったのは、エンジンという動力が、日本の工業技術の結晶であり、エンジンがEVに切り替わることで、部品が簡素化され、多くの人が雇用を失うかもしれないことに危機感を持ったからとされる。
このトヨタの取組みに、四輪車を製造するマツダ、二輪車を製造する川崎重工やヤマハ発動機を始め、他のメーカーも賛同し、トヨタの開発に協力することで、今後さらなるムーブメントになる可能性を秘めている。

しかし、世界を見渡すと、水素を次世代燃料にこだわっているのは、トヨタの他にはホンダと韓国の現代自動車のみで、仮に水素エンジンが既存のインフラを活用しながら、EVの短所を補う優秀さを示したとしても、欧米や中国が水素ステーションを導入する可能性は現在では高くないといえる。今後、水素エンジンが日本初のムーブメントとして、高い技術力を武器に世界を振り向かせることが出来るのか。