富士通株式会社は、NEDOの「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ポスト5G情報通信システムの開発(委託)」事業の中で、5G基地局の無線子局(RU)において、一つのミリ波チップで最大4ビームを多重できる技術を開発したと発表した。マルチビーム多重(偏波多重を除く)に対応した5G向けミリ波チップの開発は、世界初となる。

現在の5Gでは、Sub6と呼ばれる6GHz以下の周波数帯を用いる事が主流となっているが、ポスト5Gでは、広帯域であるミリ波帯の無線リソースを有効利用することで、さらなる高速かつ大容量化が期待される。一方でミリ波をはじめとする高周波数帯の電波は、障害物で遮蔽(しゃへい)されやすい性質があり、離れた地点間での通信が難しくなる傾向がある。ミリ波の普及のためには、一つのエリアを多数の無線基地局でカバーする必要があり、RUの小型化や省電力化、コスト低減などが課題となっている。
今回富士通が開発した技術では、四つの入力信号を中間周波数(IF)帯回路によって高密度集積し、四つのIF帯入力信号に対してそれぞれ独立した振幅と位相制御を行い、これら四つのIF帯信号を周波数変換回路によってミリ波帯へ変換すると同時に合成し、一本化された合成信号を一つのミリ波帯高出力増幅器で増幅することで、最大4ビーム多重を一つのミリ波チップで実現した。
従来のミリ波チップは、一つの入力信号に対して振幅と位相制御を行い、増幅器で増幅する構成となっており、一つのミリ波チップで1ビームを生成していた為、ビーム多重を実現するには、ミリ波チップを複数使用する必要があり、実装面積が大きくなり、RUが大型化して消費電力も増える課題があった。今回開発したミリ波チップを使用することで、実装面積を増やすことなく4ビーム多重に対応できるため、高速かつ大容量に対応した、小型で低消費電力のミリ波RUを実現できるとしている(下図)。

今後富士通では、2023年8月から本技術を搭載した基地局装置の開発に取り組み、2024年度中に本事業で開発したビーム多重技術を適用したRUの商用展開をグローバルで開始する予定。その後、基地局の親局(CU/DU)製品にもビーム多重技術を適応し、2025年度よりグローバル提供を開始予定としている。