現在、AI向けチップの供給で波に乗る米 NVIDIAだが、今回遂に自社の技術をチップ製造の依頼先であるTSMCに対して解放する。

NVIDIAは、半導体ファウンドリ最大手のTSMC、唯一のEUV露光装置メーカーであるASML、EDAツールのトップベンダーであるSynopsysという、チップの製造に貢献してきた企業に対して、新たに開発した「NVIDIA cuLitho ソフトウェア ライブラリ」を提供する。このライブラリ上でSynopsysの「Synopsys Proteus Optical Proximity Correction(OPC)ソフトウェア」を実行すると、NVIDIAの強力なGPUによって、コンピューテーショナルリソグラフィプロセスを数週間から数日に短縮することが可能になるという。

コンピューテーショナルリソグラフィとは、OPCソフトウェアを通して、アルゴリズムや計算、シミュレーション作業を実施することで、高い精度でリソグラフィを行う為の条件を見つけ出す作業である。例えば光をコントロールできる小さな飾りなどのアーティファクトを周囲に配置して光を投射すると、これらのアーティファクトがない場合よりもオリジナルに近いプリントをウェハ上に生成することが可能となる。

露光装置最大手のASMLはGPU と cuLitho で NVIDIA と緊密に連携しており、GPU のサポートをすべてのコンピュテーショナル リソグラフィ ソフトウェア製品に統合する。

GPU 上で動作する cuLitho は、シリコンウエハ上にパターンを作成するプロセスであるリソグラフィにて、現在より最大 40 倍のパフォーマンスの飛躍を実現し、現在はCPUにて毎年数百億時間を消費している大規模なコンピュテーショナルワークロードを圧倒的に短縮するという。システムに用いられる500 台の NVIDIA DGX H100 システムは 4万台 の CPU システムに匹敵し、現在の 9 分の 1 の電力で、毎日 3 ~ 5 倍多くのフォトマスクを生産する事に役立つ可能性があるという。それにより、これまで 2 週間かかっていたフォトマスクの設計が、一晩で処理可能になる場合もあるという。

TSMC の C.C. Wei CEOは「cuLitho チームは、高価な演算を GPU に移行することで、コンピュテーショナル リソグラフィの高速化において見事な進歩を遂げた。この開発は、TSMC が逆リソグラフィ技術やディープラーニングなどのリソグラフィソリューションをチップ製造により広く展開する新しい可能性を切り開き、半導体スケーリングの継続に重要な貢献をするだろう。」と述べた。

ASML の Peter Wennink CEOは「私たちは GPU のサポートをすべてのコンピュテーショナル リソグラフィ ソフトウェア製品に統合することを計画している。GPU および cuLitho に関する NVIDIA とのコラボレーションは、コンピュテーショナル リソグラフィ、ひいては半導体スケーリングに多大な利益をもたらすだろう。これは、高 NA 極端紫外線 (EUV) リソグラフィの時代に特に顕著になるだろう。」

また、Synopsys の Aart de Geus 会長兼 CEO は「コンピュテーショナル リソグラフィ、特に光近接効果補正 (OPC) は、最先端のチップの計算ワークロードの限界を押し広げている。パートナーである NVIDIA と協力し、cuLitho プラットフォームで Synopsys OPC ソフトウェアを実行することで、数週間から数日にパフォーマンスを大幅に加速することができた。業界をリードする 2 社の企業の提携は、業界に驚くべき進歩をもたらし続けている」と述べている。

NVIDIA のJensen Huangの創業者/CEO は「チップ産業は、世界中のほぼすべての産業の基盤だ。物理学の限界にあるリソグラフィにおいて、NVIDIA が cuLitho を導入し、パートナーである TSMC、ASML、Synopsys とのコラボレーションにより、Fabは歩留まりを向上させ、二酸化炭素排出量を削減し、2nm 以降のベースを構築することが可能となる。」としている。

最近の話題の中心であるGPT-4、Chat GPTを開発するOpen AI社やそれを活用するMicrosoft、GPTを追撃するGoogle、画像生成AIを開発したAdobeなど、米国には世界を席巻するAIシステムを送り出せる企業がいくつも存在し、NVIDIAはそれらの企業をチップで支えている。更にそのNVIDIAのチップを生産するのはTSMCで、TSMCを支える企業として、ASMLやSynopsysが存在する。このような他社、他国にはない強みを持った企業が集結して新しいシステムを開発するということは、対峙する中国、SamsungやRapidusにとっては脅威としか言いようがない。