国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」)新原理コンピューティング研究センター 湯浅 新治 研究センター長、スピンデバイスチーム 薬師寺 啓 研究チーム長、デバイス技術研究部門 高木 秀樹 総括研究主幹らは、不揮発性メモリMRAM用の単結晶素子をシリコンLSIに集積化する製造プロセス技術をしたと発表した。

不揮発性メモリMRAMは、記憶素子である磁気トンネル接合(MTJ素子)からなる記録ビット、ビット選択に用いるトランジスタ(CMOS)、それらをつなぐ金属配線などで構成されている。

従来は酸化マグネシウム(MgO)トンネル障壁を用いた多結晶MTJ素子を多結晶の金属配線上に直接堆積することにより作製されて来たが、記憶素子である多結晶MTJ素子の、多結晶であるために必然的に生ずる性能のバラツキやMgOとCoFeBの材料特性に起因した性能限界などの問題が、微細化に伴って顕著になる問題に起因して、MRAMは微細化の限界に達すると予測されていた。

しかし、今回の製造プロセス技術は、従来のMgOに代わり、スピネル酸化物MgAl2O4を用いた単結晶MTJ薄膜をΦ300mmのSiウエハ上に作製することに成功した。この新材料は高性能な強磁性電極材料との格子整合性に優れているため、MgOに代わる次世代のトンネル障壁材料の候補として期待されている。

また、単結晶MTJ素子をMRAMに集積化するには、ウエハ直接ボンディングなどの3次元積層技術を活用する必要がある。3次元積層技術は半導体デバイス分野では実績があるが、MTJ素子では積層技術が確立されていなかった。MgOトンネル障壁の機械的な強度が弱いため、機械的ダメージが加わる3次元積層プロセスをMTJ素子に適用することは技術的に非常に難しいとされていた。

今回は図のように、単結晶MTJ薄膜ウエハと別途用意したMRAM用LSIウエハーの直接ボンディングを行った。ここで、産総研が独自に開発したタンタルキャップ層表面平坦化技術を用いて原子レベルで平坦な薄膜表面を実現することにより、単結晶MTJ薄膜のウエハ直接ボンディングに初めて成功した。ステップ④のシリコン剥離プロセスでは、独自に調合したアルカリ溶液を用いたウェットエッチングにより、単結晶MTJ薄膜に損傷を与えずに裏面シリコンウエハを除去することに成功した。

今後は、強磁性電極にも新材料を用いた単結晶MTJ素子を開発し、MRAMの超微細化や電圧駆動MRAMのための基盤技術として活用していく予定としている。